子宮頸がんだけではありません!HPV感染で引き起こされる「男性のがん」
Tweet日本でもいよいよ9価HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが正式に承認されました。今後は、9価ワクチンが公費で接種が可能となる「定期接種」の審議がなされる見込みです。このHPVは、子宮頸がんを引き起こすウイルスとして知られていますが、HPVに感染すると男性もがんを発症する可能性があることをご存じでしょうか。HPV感染のリスクは女性だけのものではありません。男性にとっても十分注意が必要なウイルスでありワクチンによって予防できるものでもあります。
男性も高い割合で感染しているHPV
男性がHPVに感染すると、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がん、直腸がん、および、尖圭コンジローマ(性器や肛門付近に固い腫瘍ができる病気)に罹患する可能性があります。2017年にアメリカで行われた調査によると、男性の11.5%に口腔HPV感染が認められ、3.2%だった女性に比べて、感染率は約4倍であることが明らかになっています。また、2011年に行われた別の調査では、男性のHPVへの感染率は30%に及び、性交渉のパートナーが多い程、感染率が高く、ウイルスの消失率が低下することもわかっています。このように、“どこにでもあるウイルス”であるHPVに男性も高い割合で感染していることがわかります。
特定のパートナー間でおこる「ピンポン感染」
HPVは性交渉経験があれば男女問わず誰でも感染のリスクを持ち続けるものです。100種類以上の型があり、現段階では、そのうちの13種類がハイリスクHPVと呼ばれに発がん性があることがわかっています。尖圭コンジローマなどを引き起こすウイルスはローリスクHPVと呼ばれ、5種類の型があります。HPVは性交渉および類似行為によって感染しますが、多くの場合は自己免疫によって自然排出されます。しかし、一部のウイルスは体内に残り、数年かけてがん化していきます。HPVは外陰部や肛門、手や指にも存在するウイルスであるため、コンドームで100%感染予防することはできません。性交渉を持てば、パートナー同士が相互にウイルスをうつし合う「ピンポン感染」が起こる可能性があります。しかし、男性の場合はHPVの存在箇所が広範囲であり、正確な判断が難しいことから、一般的にはHPV検査を行っておらず、感染の有無を把握することは困難です。
男性もできるHPVワクチンの接種
では、具体的に男性がHPV感染のリスクを下げるためにはどうしたらよいのでしょうか?まず、「性交渉を持つ相手は特定のパートナーのみにすること」。次に「パートナーと共にHPVを正しく理解すること」。パートナーには少なくとも2年に1度の子宮頸がん検査を受けてもらいましょう。もうひとつは、「パートナーと共にワクチンの接種を行うこと」。ワクチンを接種しても感染しているHPVを除去することはできませんが、再感染を予防することができ、パートナーとのピンポン感染を避けることができます。もちろん、男性も性交渉を持つ前に打つことができれば更にリスクを下げることができます。HPVワクチンは男性でも自費で接種することが可能で、費用の目安は45,000円程です。接種を希望する際には、パートナーかかりつけの産婦人科に相談するか、内科などご自身のかかりつけ医に相談してみましょう。
集団免疫効果が確認されているHPVワクチン
ワクチンの接種には本人だけでなく、集団免疫の効果も期待されます。女性では、オーストラリア、イギリス、米国、北欧で、HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れました。結果として、同じ国でワクチンを接種しなかった女性においても、HPV感染率が低下する、集団免疫効果が確認されています。特に、オーストラリアでは、2013年から12~13歳の男性への定期接種がすでに行われており、2028年までには子宮頸がんは撲滅基準値に達すると予想されています。このため、HPV感染が引き起こす男性のがんについても同様に罹患率が低下すると考えられます。
日本でのHPVワクチン接種率はわずか0.6%
日本では公費でHPVワクチンが接種できるのは、小学校6年生から高校1年生の女性のみです。しかし積極的勧奨が控えられており、女性の接種率も0.6%に過ぎません。このまま行くと、日本で集団免疫が獲得されるまでにはかなりの年月が必要となってしまいます。その間に、女性だけでもHPVによって年間約10,000人が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が亡くなり続けることになります。そして、女性のパートナーもまた、同様にがんのリスクにさらされ続けることになります。2020年4月には、MSD株式会社がHPVワクチン「ガーダシル」の男子へ適用拡大を厚生労働省に承認申請しました。海外では77ヶ国において男性への接種を承認しており、うち24ヶ国では公費接種が行われています。二人に一人ががんになるといわれている現代において、男女でHPV感染を予防することができれば、多くの命が救われる可能性があるのではないでしょうか。