親子で向き合う女性の体 ワコールの「ツボミスクール」が伝えること
Tweet2001年にスタートした、「ツボミスクール」。小学校4年生~中学校3年生の女子とその保護者を対象とした下着教室です。思春期にある女子の成長は目まぐるしいものです。体を包む下着は、そうした女子たちの成長をサポートし、守るものとなります。今回はこのツボミスクールの講師であり、ご自身も思春期の娘さんと息子さんの母でもある上地朋子さんにお話を伺いました。
思春期の女子と保護者がそれぞれ学ぶ“成長する体と下着の選び方”
― 本日はありがとうございます。まず、株式会社ワコールで実施されている、ツボミスクールについてお聞かせください。
上地 ツボミスクールは、思春期の女子とその保護者向けの出前教室です。ワコールのCSR(社会貢献活動)の一環として行っており、私は5年前から講師をしています。具体的には、小学校や中学校に出向いて、10歳前後の胸がふくらみ始める頃の女子に向けて、体に合った下着の必要性について啓発活動を行っています。統計データで見ると昔に比べてこの年頃の女子の体の成長が早まっています。保護者の世代からみても随分早まっていると思います。でも、いつの時代でも初めてのブラジャーは、すごくデリケートな問題です。体の成長が早まっているからといって、思春期の女子にとっても保護者にとってもブラジャーをつけることが当たり前にはなっていないんですね。
― 授業ではどのようなお話をされていらっしゃいますか?
上地 現在は、小学校4年の3学期に保健の教科書で二次性徴について学んでいるようです。その話に合わせて、女性の胸(バスト)はこんな風に変わっていくということ、そのステップごとに下着が作られているので、体の変化に合わせた具体的な下着の選び方を伝えています。もう一つは体の成長には個人差があることも必ず伝えています。教科書に書いてあっても、悩んでいる生徒さんもいらっしゃるので。
― 生徒さんたちの反応はいかがですか?
上地 そうですね、おもしろいのが小学校4年生くらいまでは、ブラジャーが回ってきたら思わずかぶっちゃう子がいたり、楽しみにしていたという子が多いのですが、5、6年生になると、下着に触れない子がいたりします。興味はあるし、知りたいけれど、やっぱり恥ずかしい、まさに思春期なんだなーと感じることがあります。ですから、私はできるだけ授業を通じて、楽しかったな、ブラジャーって大人が着けるものだと思っていたけど、以外と自分たちにも関係あるんだな、と思ってもらえるようにしています。下着は地肌につけるものなので、やっぱり大事にしてもらいたいですね。
また、自分の体を守るという意味でも下着でできることはたくさんあると思っています。いくら体の成長が早くても、まだまだ中身は小学生で自分の体の成長に自覚がない子もいます。私にもその年頃の娘がいるんですが、防犯面から考えても、自分の体のことを知って、下着をきちんとつけて体を守ってほしいなと、講師としても親心としても思っています。
― 保護者の方も参加されることがありますか?
上地 基本的には子どもは子どもだけ、保護者の方は保護者の方だけと分けています。
ただでさえ、デリケートなことなので、保護者の方がいると子どもたちも照れたり緊張したりしてしまうので。保護者の方も、実はあまり情報をお持ちではないこと多く、子どもたちの成長度合いも下着の種類も昔とは違うので、熱心にメモを取りながらお話を聞かれている姿を多く見ます。保護者の方にアンケートを取ると、下着がここまで大事なものだと思っていなかった、服の下のものだから適当に選んでいて子どもに申し訳なかった、聞きづらいことだったけれど今日を機会に子どもとコミュニケーションを取ってみたいという意見が見られますね。
― 保護者の方も悩んでいらっしゃるんですね
上地 そうですね。子どもたちも悩んでるけど、一方でお母さんも困っている。例えば月経は現象として現れるので手当方法も伝えやすい。でも胸のことは、親子でも高学年になると一緒にお風呂に入らなくなったりすると分からないということもあるようです。
私が自分の子育てで思っているのは、年齢を問わずに、親子で一緒にお風呂に入って体のことや、月経のことを話し合える状態が続いていると、9歳、10歳になったときも、すっとうまくコミュニケーションが取れるのかなということなんです。そのためには、母親も正しい情報を持ってないといけないなと。子どもたちって急に「ママ、私どうやって生まれてきたの?」って聞いてくることがあるじゃないですか。そういう時のためにも、正しい情報を保護者の方に持っていてほしいなと思いますね。月経については養護教諭の範囲なので、私たちは授業ではお話しないのですが、娘が10歳なので、母親としてはすごく大事なことなんだよと前向きに伝えていきたいな、と普段から思っています。
社内での乳がん受診率80.4%、子宮頸がん受診率65.8%
― 株式会社ワコールは、乳がんや子宮がんの検診についてさまざまな取り組みをなさっていらっしゃいますね。
上地 株式会社ワコールホールディングスが2016年、2017年と「健康経営銘柄(注1)」に選定されました。ご評価いただいている理由の一つとして、社員の検診受診率が高いことがあります。2016年時点で社員の乳がん受診率が80.4%、子宮がん受診率が65.8%となっています。検診受診率を上げるために、女性がリラックスして受診できるようにデザインした検診バスを購入し、事業所内で検診が受けられるようにしています。このバスは今は他企業にも貸し出しを行っています。また、社員の意識作りとして、ピンクリボンバッチを社員全員で購入し、イベントがある際には身に着けるということも行っています。10月の乳がん月間には、ブラジャーを1枚ご試着いただくと、10円が寄付できるキャンペーンを行って、お客様にも活動に参加していただいています。
(注1)経済産業省と東京証券取引所が共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定・公表し、企業の健康経営の取組が株式市場等において適切に評価される仕組みづくりを行っている。
― 御社ではなぜこうした活動に取り組まれるようになったのですか?
上地 40年程前に、乳がんの手術をされた方のためのブラジャーを提供させていただく部署がつくられました。これは利益を追求する事業ではなく、世の中で困っていらっしゃる女性のためにというものでしたが、実はあまり製品開発は進んでいませんでした。1980年代にアメリカでピンクリボンの活動が始まり、患者様の人数も亡くなられる方も大変多かったことから、全米の企業がさまざまな形で関わるようになりました。アメリカのワコールでもこの活動に参加するようになり、その後に日本でも活動がスタートしました。
販売職で二人の子どもを出産、次の役割としてスクールの講師に
― ここからは、上地さんについてお伺いしたいと思います。ツボミスクールの講師になられたきっかけをお教えください
上地 私は1999年に販売職で入社して、新宿の百貨店で働いていました。その後、長女と長男を生みました。育休も2回取得しましたし、復帰後は時短も使いながら仕事を続けていましたが、会社の中で次に私にできることは何だろうと考えるようになって。そんな時に、ツボミスクールの講師の社内公募があったんです。それをみて、次はこれだ!と自分から手を挙げました。
― 販売職で妊娠中の勤務、復帰は大変ではなかったですか?
上地 体は辛いこともありましたが、自社のマタニティーインナーで体をサポートするなど、工夫しました。10年くらい前ですが、販売職で育児休暇を取ったのはまだ珍しいケースでした。今は、産前からのサポート体制も整い、育児休暇の取得率は99%にもなりました。また、復帰後もフルタイム勤務ができるものには、フルタイム勤務手当がでます。時短勤務をしてもいいし、頑張れる社員には手当がつく。最近では育児時短勤務の期間も小学校1年生までに伸びました。
― お子さんは望まれたタイミングでのご出産でしたか?
上地 そうですね。ただ、ほんとうに恥ずかしいんですけれど、自分の体のことについてはそれまで検診を積極的に受けたりはしていませんでした。妊娠がわかってからに葉酸のサプリメントを飲んだり、体を冷やさないようにしたくらいで……。
― お子さんとは女性の体についてお話をされることはありますか?
上地 そうですね、私もこういう仕事をしているので、できるだけ体の仕組については娘にも息子にもネガティブなイメージを植え付けずに大事なことだよ、と話しています。私も性格的にオープンなので、自分が月経のときも子どもたちと一緒にお風呂にも入ります。驚きますが、子どもたちが理解できる言葉でちゃんと伝えています。そのせいか、うちの娘は胸がふくらむことも楽しみにしているし、月経がいつくるんだろうとか、すごくオープンに話してくれますね。
成長する体を前向きに知る機会
― これから社会で活躍し、産み育てる女性たちに向けて伝えたいことはありますか?
上地 ひとつは、妊娠出産は当たり前ではないから、今から気を付けるといいよ、ということ。もう一つは、出産や子育てに辛いイメージがあるとしたら、全然そんなことはなくて……私がいまがんばれるのは子どもたちのため以外何ものでもないので、多くの女性に産み育ててもらいたいなと思います。ですから、結婚して子どもを作るかどうか迷っている後輩や、二人目を悩んでいる方なんかには、年に12回しかチャンスがないんだから!とおせっかいおばさんとしてズカズカいっちゃったりもしています(笑)
― 上地さんのお話を伺っていると、女性の体はすごくポジティブなものだと思えます
上地 ツボミスクールにいらっしゃる保護者の方から、「実はちょっと面倒だな、嫌だな、と思っていたけれど、受講してみたら、なんだ、そうなんだ!と前向きにとらえられるようになりました」「これをきっかけにいい親子関係を作りたいと思います」というお声をいただくことがあります。ツボミスクールの「ツボミ」も蕾が花として咲く、明るく楽しいことであるようにという願いも込めていますので、できるだけそういうテンションでお話ししています。
親子でも、お互いにいいにくいこともありますよね。母子でもそうですけれど、父子家庭のお父さんやお祖母様が来られることもあります。子どもにとっては、デリケートな問題ですが、お祖母様やいとこなどななめの関係でも大人に相談できるというのが大事ですよね。この授業が、そうしたきっかけの場になればいいなと思っています。
上地 朋子(うえち ともこ)1976年生まれ。1999年(株)ワコールに販売職として入社。その後、妊娠・出産経験を活かせる部門への異動希望し広報・宣伝部の中の社会貢献活動のひとつである「ツボミスクール」を担当。小・中学校を訪問し成長期にあたる女子とその保護者を対象に、からだの成長や下着についての講演活動を行う。