「産後クライシス」感じる母親は約5割
Tweet「産後クライシス」という言葉をご存じでしょうか。「産後2年以内に夫婦の愛情が急速に冷え込む状況」を指す言葉とされています。一人で育児をしているように感じている妻ほど、夫に対しての愛情が冷めていくともいわれ、それを裏付けるような調査結果が岡山大学の研究チームによってはじめて明らかにされました。
産後期の溝が離婚危機をも招く
調査では、岡山県内にある保育園や子育て支援拠点計11施設を利用する母親に無記名式でアンケートを実施、回答のあった353人について分析しました。これによると、約半数にあたる49.9%の母親が「産後クライシス」に「当てはまる」と回答しています。「産後クライシス」の始まり時期として最も多かったのは産後1~3ヶ月(49.3%)で、子どもが生まれて「うれしい」だけの気持ちから、頻繁な授乳やおむつ替えなど育児の「大変さ」が身に沁みはじめる頃と重なります。調査によると、「夫が育児に非協力的」と回答した人ほど「産後クライシス」に「当てはまる」と回答した人が多くみられたそうです。平成28年に厚生労働省が行なった調査によると、離婚により母子家庭となった世帯のうち、約4割の家庭が末子の年齢が0歳から2歳の時の離婚であることが分かっており、「産後クライシス」も何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。
「産後クライシス」が起こる原因とは
では離婚にまで発展しかねない「産後クライシス」はなぜ起こるのでしょか?今回の研究では産後クライシスの要因を、夫との関係性に関する項目(夫への嫌悪感/セックスレスになった/夫に父親の自覚がないと思うなど)と、症状に関する項目(疲れやすい/イライラする/寝不足/性欲がなくなったなど)に区別して分析しています。結果として興味深いのは「夫との関係性が悪い人」は「夫の行動に対する評価も低い」というものです。このように夫婦の関係性が「産後クライシス」に大きく影響していることがわかります。一方で症状に関する項目の評価は、夫の行動の評価と関係がみられなかったことから、夫婦の関係性以外の要因もあると考えられます。
産後の女性の体調
産後の母親の体調の変化も「産後クライシス」の要因の一つと考えられます。出産は女性にとって大仕事です。個人差もありますが、産後間もない頃の母親は出産時の疲労に加え、育児による睡眠不足やストレスもあり心身ともに疲弊している状態にあります。また、女性ホルモンの影響も大きく受けています。産後の女性の体では妊娠中に多く生成されるエストロゲンが、急激に減りはじめ心身に影響を及ぼします。こうした変化が「産後うつ」と呼ばれる精神の不調を引き起こすこともあるのです。
「産後クライシス」にならないためにできること
母親が希望する「産後クライシス」の対策としては「男性の育児参加に対する職場の理解を求める」があげられています。夫が育児に協力しやすい環境を得て、夫婦関係を良好に保つことも一つの方法としてあるでしょう。もう一つには、産後には母親自身の心身が通常とは異なる状態にあることを理解し、体を労わり体調を整えることです。塩分や脂肪分を控えめにし、タンパク質や野菜を中心としたバランスのとれた食事を摂ること。短い時間でもよいので散歩にでるなど、適度に体を動かすこと。体を冷やさないようにすること。できるだけ生活のリズムを整えることなどを心がけてみましょう。こうした工夫が「産後クライシス」にならないためにできることといえるでしょう。
<参考>
岡山大学大学院保健学研究科 中塚研究室「産後クライシス」の実態と関連する因子の解析
厚生労働省 全国ひとり親世帯等調査結果報告書