【市民公開講座レポート】ベストパフォーマンスを引き出す体づくり(前編)
Tweet2020年の東京五輪を控え、国内では女性アスリートの活躍に注目が集まっています。さまざまな種目で目覚しく活躍する選手たちですが、女性アスリートは月経困難症、無月経、骨粗しょう症、貧血、摂食障害などの問題を抱えることがあり、男性と同じではなく、女性ならではのケアが必要であることはまだあまり知られていません。パフォーマンスを向上させるためには、トレーニングのほか、女性の体に対する理解とケアも必要です。2018年7月に「ぐんま女性アスリート支援プロジェクト」の一環として、NPO法人ラサーナ主催の市民公開講座「ベストパフォーマンスを引き出す体づくり」が開催さました。講座では産婦人科、スポーツ栄養、整形外科のそれぞれの視点から意見が述べられました。
ジュニア世代からの産婦人科受診で女性アスリートの体をつくる
女性アスリートの中で月経異常を抱えている選手は40%を越えます。この背景には、トレーニングに必要なエネルギー量が不足していることが考えられます。審美系の競技や陸上の長距離で多くみられるように、運動量に見合ったエネルギーを摂取できないと、運動性無月経が発生します。無月経になると女性ホルモンが充分に分泌されず、骨粗しょう症となります。また、無月経は放置すると将来の妊娠・出産のリスクになりますし、疲労骨折を引き起こします。これら「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗しょう症」を“女性アスリートの三主徴”と呼びます。
女性アスリートは、“女性としての健康”を守ることが大切です。特に月経は、女性の健康のバロメーターとなるものです。一般的に女性は、身長152cm、体重43kg、BMI18.5程度になる12歳頃に初経を迎えますが、ジュニアアスリートの場合は身長が伸びてもBMI値が低く13、4歳で迎える方が多いようです。女性ホルモンと骨量は密接な関係にあるため、成長に応じた骨量を獲得し疲労骨折をさけるためにも、保護者や指導者は、選手の初経の発来時期と、その後も定期的に月経がきているかに注意する必要があります。また、選手に月経による不調がある場合や、試合時の月経の移動を希望する場合は、低用量ピルの服用を検討するのもよいでしょう。ベストパフォーマンスを生み出すための、女性アスリートの体づくりについて、選手、保護者、指導者がしっかりと理解し、早い段階から医師や栄養士などの専門家のサポートを受けることをおすすめします。
体づくりに必要なエネルギーと栄養
では、どういった食事が女性アスリートの体を作るために必要なのでしょうか? 一番大切なことは、運動量に見合ったエネルギーをしっかりと摂ることです。また、量だけは無く摂取する栄養素も大切なポイントです。特に、カルシウム、鉄、ビタミンDは意識して摂りましょう。また、審美系や陸上競技などでは、できる限り体重を軽くしたいという理由で、食事量を増やすことに抵抗があるかもしれません。
しかし、”女性アスリートの三主徴”からもわかるとおり、エネルギー不足は女性アスリートのリスクとなります、エネルギー不足を避けるために、主食となるご飯は三食毎に摂り、足りない場合は芋やおにぎりなど補食で補います。高崎健康福祉大学の丸山まいみ先生からは、6つの皿を揃えるアドバイスがありました。①主食(ごはんやパン)、②主菜(肉や魚)、③副菜(野菜中心のおかず)④汁物⑤果物、⑥乳製品を1度の食事の中で摂ります。一度にたくさん食べられない場合は頻回に食事を摂るのもよいでしょう。こうした食事を毎食摂り、怪我や不調のない体をつくりましょう。
怪我をしない体づくりとトレーニング
善衆会病院 萩原敬一副院長女性アスリートに多いスポーツ傷害に「膝前十字じん帯(ACL)損傷」と「疲労骨折」があげられます。ACL損傷は男性に比べて女性は3倍の発生率で、特に若年の女性に多く見られます。これは、女性が男性よりも関節弛緩性が高いことによります。女性は骨盤が広い、膝が内側に入りやすい、筋力が弱いという特性から、損傷が起こりやすくなっているのです。
怪我を避けるためにはアライメントの改善が有効です。「ACL損傷予防プログラム」に基づき、指導者が動作アライメントを観察し、選手に予防トレーニングを行うことで、改善を図ることができます。指導者も正しい知識を身につけアスリートのサポートを行うことをおすすめします。また、疲労骨折は16~17歳の女性に多く見られ、繰り返す傾向にあります。やはり月経異常のあるアスリートの多く見られるため、エネルギーをしっかりと摂取し定期的に月経のある体を維持する必要があります。
後編では、元新体操日本代表(フェアリージャパン)の畠山愛理さんが実践した、トップアスリートの体づくりについてご紹介します。