【市民公開講座レポート】元新体操日本代表・畠山愛理さんに聞くーベストパフォーマンスを生み出す体づくり(後編)
Tweet前編では、産婦人科、スポーツ栄養、整形外科のそれぞれの視点による、女性アスリートの体づくりについてレポートしました。後編では、新体操日本代表としてロンドンオリンピック、リオデジャネイロオリンピックで活躍した、畠山愛理さんに、トップアスリートとしての経験をお話いただきました。
新体操との運命の出会い。練習に打ち込む日々
畠山さんが新体操を始めたのは6歳のとき。リボンを使って曲に合わせて踊る楽しさに魅了され、瞬く間に新体操のとりこになっていたそうです。憧れの選手の動画を見ては、練習し、演技を完全コピーするなど、新体操に出会ってから、いつも考えているのは新体操のことばかりだったそうです。小学校6年間の練習を辛いと感じたことは一度も無かったといいます。2009年12月、中学3年生の時に日本代表である「フェアリージャパン」のオーディションに合格し、新体操日本ナショナル選抜団体チーム入りを果たしました。
初経以降に悩まされた貧血による不調
順調にアスリートとしてのキャリアを築いていったように見える畠山さんですが、中学生になる頃から、怪我や体調不良に悩まされていたといいます。
畠山 中学に入ってから初めて怪我をしました。腰椎分離症・分離すべり症です。それがアスリートとして始めての挫折です。月経もありましたが、不順でいつ来るかわからないという状況でした。でも一番辛かったのは「貧血」です。同じ練習をしていてもクラブチームのみんなは元気なのに、自分だけ倒れそうになっていて、自分が悪いのだと思い込んでいました。 ある時、母と屋外を歩いていて、突然階段を登れなくなってしまいました。慌てて母が病院に連れて行ってくれ、検査を受けると車いすに乗るレベルの貧血だったことが分かりました。それを見た母はショックで泣いてしまいました。 母は食事のサポートをもともとしてくれていたのですが、私は練習を終えて帰宅すると、用意してもらった食事を食べずに寝てしまっていました。本当は練習の後はご飯をしっかりと食べなければいけません。でも小学生、中学生の頃には何をどのように摂ったらいいかわかっていなかったんですね。
アスリートとして見直した食事内容と摂取量
階段を登れないほどの貧血であることが分かってから、畠山さんは食事の内容と摂取量を見直すようになりました。審美系の競技や陸上競技のアスリートでは、体重を増加させないよう食事を節制する傾向もあり、畠山さんも簡単に食事の量を増やすことができた訳ではないようです。
畠山 食事の内容や摂取量は全く変わりました。特に気を付けたのは、“バランスよく摂る”ということです。貧血で倒れる前は、体重が増えないように気を使っていて、今思うと「体重のために生きている」という感じでした。アスリートの中には、体重の増加を嫌って、白米を食べることに抵抗がある人もいます。私自身も「炭水化物は太る」というイメージが強く、白米を食べることに罪悪感があったので、食事を見直した最初の頃は、“勇気を出して”白米を食べていました。でも結果的には、食事をしっかりと摂るようになってから、太りにくい体質になりました。アスリートは、エネルギーが足りていないと十分な練習ができません。きちんと食事を摂るようになってからは、気持ち良く踊れるようになって、気持ちよく練習を終えることができるようになったと実感しています。怪我と貧血の原因が栄養とエネルギー不足だったことがいまではよくわかります。
トップアスリートとして意識していたこと
畠山さんは、新体操に対する想いは人一倍強く、代表に入ってからも周りの倍、練習することを心がけていたそうです。特に怪我をしてからは、オフシーズンでも筋トレに励むなど、体づくりに余念がありませんでした。
畠山 トップアスリートとして、自分の体を知ることがとても大切だと思います。私も怪我に苦しんでいた時期は、新体操を辞めようかと悩んだこともありました。怪我の最中に大会があり、出場を悩んだこともありました。でも、どうしてもオリンピックに出場したかったので、怪我の悪化を避け大会に出場しないという選択をしたこともあります。アスリートは自分の体の「ここが痛いから、これを摂った方がいい」と感じることが大切です。また、不調があるときは、コーチや仲間など身近な人に話をすることも大切だと思います。 体調を整えてしっかりとしたパフォーマンスができると評価につながります。大会はここまで頑張ってきた自分へのご褒美です。大会を楽しめないと自分自身に申し訳ないと思いますので、その日に備えて、全力でパフォーマンスできる体づくりが大切です。 アスリートの中には、ジュニアアスリートのように、年齢が若く、経験も浅いなどの理由から自分のコンディションや気持ちをうまく伝えられない方もいます。周囲の方にはそうした状況も理解していただき、アスリートのちょっとした変化や、発言を見逃さずにサポートしていただけるとよいと思います。――――――――――――
成長期にある女性アスリートが直面した課題について、ご自身の経験をお話くださった畠山さん。さまざまな努力を経て、2015年の世界新体操選手権では、日本で40年ぶりとなる銅メダルを団体種目別リボンで獲得。2016年のリオデジャネイロオリンピックでは団体出場で8位入賞を果たされています。これから活躍するアスリートのみなさんはぜひこのお話を参考に、ベストパフォーマンスを生み出す体づくりに取り組んでみましょう!