「サポートを受けたら、次に返せればいい」働くと子育ての割り切り方
Tweetベネッセコーポレーションで出産、産休、育休を経験し大学卒業から現在まで勤務されている株式会社ベネッセコーポレーションの菅智代さん。ご自身の出産時の経験を生かした現在のお仕事では、産前産後の母親たちに寄り添う企画を生み出されています。そんな菅さんにご自身の産休のご経験、現在の仕事と育児についてお話を伺いました。
「社員の半分は女性」ベネッセの産休、育休
― 本日はありがとうございます。まず、株式会社ベネッセコーポレーションについてお聞かせください
菅 弊社は、2,500人の社員のうち半分が女性です。それで女性が活躍できるようにと、1980年代からさまざまな制度を作ってきました。
その中には「育休」「時短勤務」があります。現在では年間100人近くが育休にはいって、100%近くが復帰しています。社内には第2子、第3子を持つものも多くいます。具体的には、復帰するときに、浦島太郎にならないように育休中の会社の情報を知らせて、情報をキャッチアップするサイトがあったり、働く先輩ママ社員の話を聞いてこれからの自分の働き方や育児のシミュレーションを、もっと具体的にイメージするための復帰者研修などがあります。
こうした取り組みから女性活躍推進法に基づいた女性の活躍推進優良企業が受けられる「えるぼし」の三段階認定も受けています。また、育休は男女ともに同じ期間とることができ、一か月ほど育休を取得する男性社員も増えています。
― 菅さんが、ご出産される時にも同様の制度はありましたか?
菅 これまでに、ブラッシュアップされてきていますが、当時もありました。また、制度もありますが、実際問題として「働く母」が社内に多いので、身近に相談相手もいますし、働きながら仕事をするということへの周りの理解にも恵まれているのではないかなと思います。
― 制度だけではなく、風土の方が実は大事だったりしますよね
菅 私も妊娠して、通う病院のことや、子育てサポート施設、制度などについて社内の先輩ママに教えてもらいました。子どもが小学校にはいってからも、夏休みや放課後の過ごし方とか、残業したときのサポートの仕方などたくさんアドバイスをもらっています。
出産で得ることができた、生活者の視点
― ご出産のタイミングについてはどのように考えていらっしゃいましたか?
菅 特にこの時期に生みたいということはなかったのですが、たまたま授かったときに周りの方が本当に喜んでくださって。安心して育休はとらせていただきました。体調にもすごく気遣っていただきました。
― 中にはお仕事を理由に、妊娠をためらわれる方もいらっしゃるようですが
菅 今のままでは中途半端なのではないか、もう少しキャリアを積んでからの方がいいんじゃないか、という思いはすごくありました。心配は尽きないものなので、思い切って飛び込んでみようと。結果なんとかなってきたというところですね。
― 実際に産休をとられてみていかがでしたか?
菅 産休をとってみると今まで働く自分しか知らなかったので、子どもがいる生活とのギャップにすごく戸惑いましたね。今考えると、想定が不足していたなぁと思います。赤ちゃんのいる生活やお世話がどういうものかあまりシミュレーションをしませんでした。また、周りを見渡すとサポートしていただける制度や人があるのに、その情報も得てなくて。ただ中にこもってしまったなということが、すごく大きな反省点です。
― 仕事に復帰されるまでに焦りなどはありましたか?
菅 やはりありました。自分は休んでいるけれど周りはどんどん先に進んでいくので。自分だけ遅れているのではないか、という焦りと、本当に復帰して子どものいる生活をやっていけるのかという不安はありました。
― 実際に復職されてからは、どんなふうに感じられましたか?
菅 置いていかれているのではないかというところは、杞憂だったなと思います。逆に、母になって自分の住んでいる地域のことや、生活者としての視点が増えたので、それは仕事面でもほんとにプラスになりましたね。
「愛情以外、借りられるものは借りる」という割り切り方
― 復職後は働き方を工夫されるようになりましたか?
菅 時短制度を使っていたのですが「会社でしかできないことは会社でする。考えることは家でする」と切り分けるようになって、「この時間までにこれをする」という集中力が格段にあがりました。
― フルタイムにはいつから戻られましたか?
菅 子供はいま小学校5年生なのですが、保育園の最終年次のときにフルにもどしました。残業もあったので、それこそ借りられる手は本当に何でも借りました。保育園時代のママ友や、ファミリーサポート、遠方に住んでいる双方の両親にも泊りがけできてもらったり。仕事が詰まってお願いするときには愛情以外は全部お願いします、という感じでした。
― 手を借りることに抵抗はありませんでしたか?
菅 最初は1人でやろうと思ったんですけれども、夫の単身赴任も重なり自分がいっぱいいっぱいになってしまって。すると朗らかでいられない。子どもとの関係性もよくなくなってしまうので、思い切って割り切りましたね。愛情だけは最優先で自分でたっぷりそそぐ。でもごはんはこの日は外食でいいかとか、いろんなことが会社であったけども今日はおいしいものを買ってデザートもつけて、娘と贅沢しちゃうけど笑顔で過ごそうとか。いろんな割り切りをするようになって、気持ちも楽になりました。
子育て中って「お願いします」とか「すみません」ということばかりなのですが、悪いと思い過ぎると気に病んでしまうので、「今はそういう時期なんだ。いつかどこかでお返ししよう」と思っています。
いざというときのための日々のメンテナンス
― 産後に体調の変化について感じられていることはありますか?
菅 子どもを産むまであまり病院にかかったことがなかったのですが、今思うと若い時にもう少し自分のメンテナンスをきっちりしていたら、今でも無理がきいたかなといます。具体的には、定期的に自分の体の状態を知るということと、今自分に何が不足しているのか、何に気をつけるべきかを知って、日々に生かしていくこと。小さなことでも日々に生かすことがメンテナンスだと思います。
― 今はどのように健康に気を付けていらっしゃいますか?
菅 会社の福利厚生で乳がんや子宮がん検診も人間ドックの項目にあるので定期的に検診に行くようになりました。本当にやりたいと思ったときには踏ん張りたい、飛び込みたいという気持ちがありますので。そこはすごく意識していますね。絶対時間をつくります。
自分自身の産後の経験を生かした今の仕事
― 現在はどのようなお仕事をなさっていらっしゃいますか?
菅
今は「お誕生記念プレゼント」という、産後約1ヶ月のお母様のお手元に届く絵本の企画に携わっています。産後1ヶ月のお母様って、慣れない育児に加えて体調もまだおもわしくなく、気持ちがふさいでしまうこともある大変な時期です。そんなときにこの絵本をお届けすることで、出産したときにいろんな人に祝福してもらったことや、赤ちゃんと出会えてうれしかったっていう気持ちを思い出していただいて、また頑張ろうと少しでも思ってもらえたらいいなという思いを込めてつくっている企画です。ぜひ多くの方に手にとっていただきたいなと思っています。自分自身の産後も辛かった記憶があるのでその時にこの絵本があったら、どれだけよかったかなという思いもあります。
“たまごクラブ”などの雑誌の産院用の特別企画にも携わっているのですが自分自身の出産時の反省として産前の情報収集やシミュレーション不足があって、その一つにパパやおじいちゃんおばあちゃんなど、いろんな方を産前に巻き込んでおくのが、すごく大事だなと感じたので「パパと読む妊娠生活心得BOOK」というものを作っています。自分の口からはいいづらいけれど、こんなところを一緒にやってくれるとうれしいなとか、妊婦さんはこういう風になるんですよ、ということを少しでも知っておいてもらえると全然違うのではないかという情報を盛り込んだりと、自分の思いもものすごく込めて仕事をしています
― 最後にこれから働く女性、産み育てられる女性にメッセージがあればお願いします
菅 想定外のことは絶対に起こるので、頭でっかちに考え過ぎずに飛び込んでみる、ということでしょうか。そのためにもできる限り情報収集しておく、シミュレーションしておく、そして周りの人を巻き込んでおくのが、とても大事だと思います。
自分1人で抱えきれるものではないと思いますし、行政も含めていろいろなサポートを利用していいと思います。子どもにとっては母の笑顔が一番だと思うので、サポートを受けたら次にどこかでご恩返しができればいいという大きな気持ちで割り切っていければいいのではないか、と思います。
菅 智代(すが ともよ)
1999年 株式会社ベネッセコーポレーション入社
通信教育講座部門(「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」)、 学校向け教育事業部門、及びスタッフ部門経験を経て 2015年4月より現職
2006年 長女出産 産休、育休を経て職場復帰