予防医療から考える 望むライフプランを描くために守りたい「女性の健康」
Tweet2009年に日本に予防医療を普及することを目的として立ち上げられた一般社団法人Luvteli(ラブテリ)。その代表理事、予防医療コンサルタントであり、私生活では一児の母でもある細川モモさんに、働く女性の健康についてお話を伺いました。
両親のがん闘病経験がきっかけとなった「予防医療」の普及活動
― 本日はありがとうございます。まず、細川さんが活動を始められたきっかけについてお教えください。
細川 予防医療を日本に推奨しようという活動自体は、両親のがん闘病経験が一番大きかったと思います。私が18歳の時に父が胃がんに、19歳の時に母が悪性リンパ腫になり、母は25歳の時に亡くなりました。この経験から「家族を病気で失う」ということを防ぎたいと思ったことが最初のきっかけです。
予防医療は、国民保険が手厚い国だと栄えません。栄えているのは、国民保険がない国です。こうした国の国民は、どういったことを医療だと思い、どうやって自分の健康を管理しているのか知りたいと思い、当時の母の主治医にアドバイス受けてアメリカへ行きました。10年以上前の日本にはドラッグストアやコンビニエンスストアにサプリメントは置かれていませんでしたし、栄養についてもまだ注目されていませんでしたが、アメリカはサプリメントの全盛期。「サプリメントで栄養そのものをとって体の健康を作っていく」という考え方に衝撃を受けました。また、生活習慣が病気のリスクを決める因子だと認識していたので、当時のアメリカで、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」というDOHaD説(Developmental Origins of Health and Disease)という最新学説を初めて聞き、衝撃を受けました。本質的な予防のためには胎児環境にアプローチしなければいけないということに気が付いたことが、”母子健康”に着目した大きなきっかけとなっています。
― ”母子健康”にも、さまざまな問題がありますね
細川 ラブテリをはじめようと思った理由は課題が明確だからです。生まれる子どもの約10%が低出生体重児であり、これはOECD加盟国でも最悪の数値です。小学生の4.5人に1人は血液検査で異常値がみられ、脂肪肝、中性脂肪、尿酸値などに問題があるといわれています。女性は痩せすぎの方が非常に多く、指数ではコンゴやケニアと同じような数値がでています。歴然とした課題が母子健康にはあるのですが、今の日本の公衆衛生は、「健康な人間の健康をより増進する」ということへ十分な予算や労力をかけられていません。では誰が「母子健康の予防・向上」をやるのか? 自分たちがやらなければいけない、という自覚と危機感をもって活動しているのがラブテリです。
全国で働く女性の健康と母子の健康を守る保健室を展開
― 今は主にどういった活動をなさっていらっしゃいますか?
細川 今年は2つのプロジェクトを立ち上げます。ひとつは、2014年から始まった、働く女性の健康支援プロジェクト「まるのうち保健室」を自社開催で全国に展開します。国の施策として働く女性を増やすというものがありますが、そのためには、女性が病気にならずに100年きちんと働いていける社会作りをしていかなければいけないと思っています。たくさん働いて子供も産んで、でも健康は自分で管理してね、というのはとても難しいことです。社会が受け皿を作って、「たくさん働いてもらう代わりに、健康はこういう形で支えますよ」というメッセージを出していかないと、働く女性は潰れてしまうと思います。
日本では婦人科の検診受診率がとても低く、病気の早期発見率が非常に課題になっています。病院へ行くハードルが高いのだと思うのですが、忙しくても、自分の体に興味関心を持ち、専門家に会って話を聞かせてもらう場所を提供したいと考えて作ったのが「まるのうち保健室」です。ここでの調査をもとに、働く女性の抱えている健康の問題に関するファクトデータを4年間創出し続けることで、現在では徐々に、社会の流れを作れてきているのではないかな、と思っています。この保健室を今年から2年間をかけて全国7エリアで実施し、各エリアの白書を作成する予定です。地域ごとに女性の健康に課題があるので、私たちの保健室のフィールドを活かして、各エリアでの健康マネジメントに注力するという、産学官連携のモデルをそれぞれのエリアで立ち上げます。
ふたつ目は、「ベイビーアンドキッズヘルスプロジェクト」です。今、子どもたちの体格の痩せ率が上がっており、2歳児では言語能力の発達が以前より遅れているという報告があります。栄養では脳の中枢神経の発育を促す鉄分の充足率が51%しかないのに、塩分は200%摂っていることもわかっています。加えて、日本の赤ちゃんは世界一睡眠時間が短いのです。このプロジェクトでは、妊娠中のお母さんと、産後のお母さんの体と心のケアを行うとともに、乳幼児を健全に健やかに発達させるために、どういった食生活や運動習慣が必要かということを、親子で一緒に測って、学んで、食生活カウンセリングも受けられる「親子保健室」を初年度まずは全国4エリアで展開します。同時に母子の健康に関する調査も行い「こども健康・栄養白書」として発表していく予定です。それをもって、妊娠前の働く女性から、産後のお母さんまでを、ようやくきちんとケアできるようになると思っています。
― それぞれのプロジェクトにおいて課題はありますか?
細川 プロジェクトを進めていくと同時に、企業や自治体に対して、女性に長く働いて欲しいのであれば、こういうことをやらなきゃダメですよ、という説得に足るデータを作っていって、社会実装をしていくということを同時進行で行わなければならないと思っています。調査を行うことで、問題は顕在化しますが、その後に「どうすればいいの?」で終わってしまう。今、対象となる女性や子どもの健康増進に関わる商品開発をいくつかの企業と進めており、企業内セミナーも好評を博しています。働く女性やお母さん自身への啓発もきちんとしていきますが、その人たちの意識が変わったときに、より健康に良い選択ができるような環境を作っていかなければならないと思っています。
― 実現のために必要なことはなんでしょうか?
細川 9年間のラブテリの活動を通して、女性として母として、”こうあって欲しい社会”は、女性自身が動いていかないとダメなんだなというのが実感としてあります。誰かが自分たちの環境をすごくいいものに変えてくれるだろうと思っていると、永遠にその時はやってこないという大きな気づきがありました。また、女性をどういう風に社会が大事にすればいいのかという方法論は、裁量権のある男性にアプローチしていかなければなりません。社会実装は女性だけに向けてやっていけばいい問題ではなく、男性に向き合う必要があるとすれば、やはりファクトデータの創出が大切です。情に訴えかけるのではなく、どれだけの実態があって、なにがその損失を生むのかというところをエビデンスのあるデータとして生み出し続けることが、本気で社会を変えるためにやっていかなければいけないことだと思います。
出生体重3000gを目指した細川さんの妊娠出産
― ここで、細川さんごについてもお聞かせください。ご自身のご出産はいかがでしたか?
細川 つわりもなく、特に大きなトラブルもなく妊娠出産できたかなと思います。ただ、どうしても低出生が嫌だったので、できるだけ大きく育てようと思っていたら、33週に入るくらいの時に、娘の頭位がその時点で普通の赤ちゃんの平均を超えてしまいました。お医者さんには、身長153㎝の私の骨盤から出産できる頭のサイズの限界をそろそろ超えるので、下から産むのは難しいかもしれない、といわれまして。でも、経膣分娩が希望だったので先生と相談した結果、37週に入ってベッドに空きがあったらなるべく早めに計画分娩で生みましょうということになりました。それで37週と1日目に電話がかかってきて、「はい、今日生みます!」と。計画分娩で産んだのはちょっと想定外でしたね。
― 細川さんだからこそ、妊娠中に特に気をつけられたことはありますか?
細川 私は赤ちゃんの出生体重は3,000〜3,500gが望ましいという発表を聞いており、胎児をそこまで大きくするためには、普通体型の自分が11~13㎏太らないといけないということが分かっていたので、どちらかというと早く体重を増やそうと思っていました。出産した病院でも助産師さんに、「お産の時は小さい方が楽だけど、大きい赤ちゃんの方が育てるのは楽よ」っていわれたのが印象に残っています。お産の時には出血多量というハプニングもありましたが、1歳4ヶ月まで本当に何事もなくすくすく元気に育っているのをみると、適度な体重で産めたことをよかったなと心から思っています。次の子を産む時も3000~3500gに育ててから産んであげたいなという思いがあります。
義務教育の中では教えられない”女性の体の守り方”
― 最後にこれから出産を考えている女性たちに向けてメッセージをお願いします
細川 私たちの時代と、私たちの母たちの時代ですごく大きな違いというのは、「不妊」という言葉に対する認知度や、社会が抱いている感情の変化があると思います。「不妊」という言葉が身近になったことは、妊娠準備に対する社会的気運を盛り立てている背景のひとつなのではないかなとも思います。ただ、「まるのうち保健室」を利用される方の平均年齢は34歳で、その9割の方が近い将来の出産を希望されているとことからみても、今の女性には相手ができてから妊活しようという時間の余裕はないのだと思います。妊娠準備にパートナーの有無は正直関係のないことで、できるだけ早く始めるにこしたことはないと思います。いつか子どもが欲しいと思っているなら、自分が不妊にならないリスクがゼロということは絶対にないので、その芽をどうやって潰していくかというのは早く考えた方がいいと思います。私たちの国では、きちんと義務教育の中で、女の人の体の守り方を教えてはくれないので、自分で学ばないと学べません。その防衛意識っていうのは必要なのではないかな、と思います。
望む子どもを生涯望むだけ産むというのは夢物語になってきているのかもしれません。第1子を産んで自分の子どもがすごくかわいいなと思ったときに、ああ、3人でも4人でも産みたいなと思う可能性はゼロではない。早く産んだら少なくする選択肢はあるけど、遅く産んだら多くする選択肢が取れないので、将来出産を希望しているのであれば、先延ばしせずに1人産んでみて、かわいいと思ったら望む数を持てる方がいいんじゃないかと、自分が産んでみると思いますね。
― それが自分の体を守ることで、選択できるようになるということがすごく大事なことですよね。
細川 そうですね。健康であれば30後半でも元気に子どもが産めるかもしれません。でも自分が健康でないと、産後うつになってしまうとか、子育てで体力がいっぱいなどで仕事に復帰できないとか、キャリアプラン、ライフプランが狂ってしまうこともあるかもしれません。希望する子どもの人数や、ライフプラン、キャリアプランの実現はすべて、健康という土台の上に成り立っているものなので、そこは知識をつけて、できるだけ早く自分の体と向き合う機会は持って欲しいと思いますね。
細川モモ
◉予防医療コンサルタント
◉社団法人ラブテリ トーキョー&ニューヨーク代表理事
◉2011〜2015 ミスoユニバースoジャパン オフィシャルトレーナー
両親のガン闘病をきっかけに予防医学に関心をもち、渡米。International Nutrition Supplement Adviser.の資格を取得後、健康食品会社の開発部に所属。以後10年間欧米の疾病予防リサーチと勉強に充て、09年の春に予防医療のプロフェッショナルチーム「ラブテリ トーキョー&ニューヨーク」を日本とNYに発足。(株)タニタとともに5年に渡り世界一の美女候補の身体づくりをサポートし、美と食と健康について分析を深めている。11年より女子栄養大学らとともに「卵巣年齢共同研究PJ」「高崎妊婦栄養研究PJ」など、女性と次世代の健康に関する共同研究を複数手がけ、国際学会並びに論文発表を精力的に行う。14年に三菱地所(株)とともに働く女性の健康支援の一環として「まるのうち保健室」をオープンし、「働き女子1,000名白書」を発表。数々の試みがNHK「クローズアップ現代」、農林水産省「食育白書」、NHK world、日経新聞他に取り上げられる。厚生労働省データヘルス見本市2015にて”健康づくりのプロ”として登壇。
現在は一児の母として母子健康向上PJを立ち上げ、「おやこ保健室」を全国展開すると共に日経DUALやPre-mo(プレモ)にて子育てレシピエッセイを執筆中。離乳食などの食生活を公開しているSNSが人気。
一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)
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